観光に行くと、ふだん美術館に行かない人も美術館には立ち寄る。
「パリに来たからルーヴル」「ニューヨークに来たからMoMAとMET」。
美術館は、食べる・買う・寝る以外のアクティビティとして、最も言語的ハードルが低い文化体験。「失敗しない観光先」だ。

コペンハーゲンから1時間以上かかるルイジアナ美術館も、夏は世界中からの観光客で混み合う。
カフェではサーモンサラダとワインを求める行列ができ、芝生には寝転ぶ人がずらり。
子どもたちは壁をよじのぼり、隠れたところに設置されたロングすべり台に熱狂する。
館内よりも庭と海辺のほうがにぎやかで、もはや「公園の母屋にアートが置いてある」状態になる。

だが、これが不思議と成立してしまうのがルイジアナの魔術。
芝生に寝転ぶことも鑑賞体験の一部。建築家、ヨルゲン・ボーとヴィルヘルム・ヴォラートのランドスケープごと美術鑑賞体験としたデザインは今もいきてる。

芝生の端からさらに数メートル歩けば、もう海。
視界の先にはスウェーデンの陸影がにじみ、夏のデンマーク特有の柔らかい光が水面をきらめかせてる。

ここでためらわず、桟橋へ駆け出そう。

最初の一瞬。冷たい。でもすぐに心地よくなる。
泳ぎながら振り返ると、美術館の白い壁が木々のあいだからちらりと見えて、「アートと海水浴の交互浴」という奇妙な実感に包まれる。

美術館に行ったつもりが、気がつけば夏の海で遊んでいる。
あるいは、海に遊びに来たはずが、気がつけば美術館に足を踏み入れている。現代芸術の描く人間や社会の深部に思いをめぐらせたあと、ひんやり冷たい海で爽快な気持ちになる。
この二つが、ルイジアナでは曖昧に溶け合っている。「陸と海」「内と外」「アートと余暇」が混ざり合う感覚。ここにしかない交互浴だ。

この海辺はデンマーク沿岸でも特に美しく整備されている。
海の風景も含めて作品だから。桟橋も美しく改修された。
振り向けば芝生に寝転ぶ世界中から集まる人々。

ルイジアナ美術館の夏は、北欧の暮らし方そのものを体験させてくれる。
「文化と自然を分けない」という思想が、建築と風景にしっかり組み込まれている。

…次に行くときは、水着とタオルを忘れずに。
それが、この場を深く解釈するドレスコードなのだ。